ピンチヒッターは先生のお嬢様、だが……
一月末、予告通り、それどころかうち一人は予定を繰り上げて退職してしまい、私と先生しかいなくなったよさこい労務事務所であったが、さすがに行政書士試験では全国二位の成績を収めたとはいえ、社労士事務所の経験はない私と先生だけでは、キャパシティ的にも無理がり、かねて(私が来ない前提で)先生が調整していたということで、先生のお嬢様が働いてくれる事になった。
お嬢様は三〇台の女性だが、わりと物覚えが良く、私は何度か、是非とも社労士の資格を取ってほしいと声をかけたぐらいであった。
しかし、竹内先生のお嬢様への当たり方は異様で、まさしくパワーハラスメントそのものであった。
何を質問しても「それぐらい自分で考えや!」と一括。そして、先の記事で「よさこいチャーシュー」と呼んだ、巨大な下腹部を突き出して後ろから画面に貼り付いての業務指導。親子とは言え気持ち悪いのではないか。
ちなみに、私は口臭だけで耐えられなかったので、しばしば、マスク自由化後もマスクを持ち運び、先生が画面を見に迫ってきたときだけ、自分の鼻を隠し先生の口臭を食い止めたいがためにマスクを着けていたぐらいだ。
挙げ句には、お嬢様を小バカにした上で「おまん(お前)は、無資格者やきぃ♪」と放言。さすがにかわいそうであるし、竹内先生の当時の社労士・行政書士試験は今とは比較にならないぐらい難易度は低い。
この辺りで、もはや一〇年前の竹内先生とは変わってしまったのだと見切りを付けても良かったものだが、私は折に触れ、陰ながらお嬢様の助けになるような業務改善だけに努めながら(先生が怒鳴り散らす機会を減らすように努めながら)、家族関係そのものには介入する筋合いではないので、黙って業務を追行し続けた。
しかし、私が休暇を頂いて東京に行き、帰ってきた火曜日、お嬢様はいなくなり、先生が困り果てた顔でこっちを見ていた。
何事かと尋ねると、お嬢様が「鬱になって」来てくれなくなったという。「鬱になりそう」とは毎日言っていたが、本当に鬱になるとは思わなかった、家族だからきつく当たったこともあったが他人にはこんな事を言わないと弁解を並べ立てる竹内先生。
いつかはこうなると思っていたが、一ヶ月も持たないとは思いもしなかった。ちなみに、この時点でよさこい労務事務所は、二ヶ月弱で離職者3名、定員1名(フルタイム換算)に対し離職率300%である。このままだと離職率1,000%を超えかねない。こんな「労務」事務所があって良いものだろうか。
ちなみに、私はさすがに、私一人だけになった今、さすがに私にまではきつく当たりようがないという状況も考えて、竹内先生に「お嬢様を傷病手当申請をした上で、会社都合で離職にしてあげてはどうか」と掛け合ってみた。
しかし、竹内先生は「助成金が受けられなくなる」「会社都合でもないのに会社都合にはしたくない!!」と一括。
自分だけが常に正しいと強く信じ込み、数字だけを見ても客観的におかしいことにさえ気づけない。2年連続で4人も8人も、偶然、自己都合で辞めたくて辞めるはずがない。変わり果てた、「よさこいチャーシュー」の姿がそこにはあったのである。
一説によれば、脳の認知機能は、60歳では12歳と同程度にまで退化するという。
しかし、これはあくまでも平均値で、私は70歳を超えても、いや、むしろ歳を重ねたからこそ、人格者でありつづけた経営者や士業者を何人も知っている。12歳と同程度というのは、平均値の話でしかないはずだ。
恩義ある竹内先生が、社会保険労務士でありながら、その「平均値」を押し下げる側に回られてしまったことが、私としては何よりも残念である。
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