『アリ地獄天国』の真相に迫る!青林堂VSプレカリアートユニオン裁判傍聴記

10月2日、東京地裁第530号法廷で、プレカリアートユニオン(代理人弁護士・佐々木亮ほか)が、株式会社青林堂を相手取って起こした訴訟の本人尋問が行われました。

原告の訴えは、同社が出版した書籍『中小企業がユニオンに潰される日』の中に、事実に反して原告である組合及びその組合員の名誉を棄損する表現内容が含まれているというものです。

本人尋問を受けたのは、被告側が書籍の著者である田岡春幸さん、発行者である青林堂の代表取締役・蟹江幹彦さんです。

事実に反して名誉棄損に当たる記事を書かれたとする原告側が、プレカリアートユニオン組合員でアリさんマーク引越社事件の主要当該であった野村泰弘さんです。

計3名に、それぞれ主尋問・反対尋問の時間が20分ずつ割り振られました。

傍聴席には青林堂の取締役で蟹江さんの妻である渡辺レイ子さんの姿も見えましたが、プレカリアートユニオンからの傍聴支援は、私たちの見たところ皆無のようでした。私・前田さん・TさんのDMUのメンバーと渡辺さんの他には、2人くらいしか出席していなかったと記憶しています。

私はてっきり、清水直子氏か、または誰か知った顔に出会うのではないかと思っていたのですが。ちょっとほっとした反面、「あれほどマスメディアを騒がせた事件なのにもう忘れ去られてしまったのか」「プレカリの人たちはいったいどうしたのか」「『野村さんがどうしているか気になる』と言っていた人もいるのに、まさか裁判の日程を知らないのか」と様々に、訝しく思いました。

尋問は、田岡さん、蟹江さん、野村さんの順番で進みました。

被告側反対尋問の中で、田岡さん・蟹江さんの両名が、野村さんやプレカリ側への取材を全くしていなかったこと、全て引越社の井ノ口副社長から聞いた話だけを基に本を書き、出版していたと言っても差し支えないことが明らかになりました。

裁判長も同調する様子を見せ、強い調子で追及を続ける佐々木弁護士の顔には始終微笑みが浮かぶなど、序盤から中盤にかけては原告側が圧倒的優勢に見えました。さすがに、かつて清水直子氏をして「底意地が悪い」と評せしめただけのことはあります(井ノ口副社長が召喚された都労委本人尋問の呼びこみ文にあった表現)。

ところが、最後の野村さんの反対尋問の場面になると、風向きが変わってきました。

私は最初、「どうして被告側が佐々木亮さんの著書を証拠として提出するのだろう?」と不思議に思っていました。

著書といってもマンガです。読者の皆さんがお読みになったかどうかわかりませんが、『まんがでゼロからわかるブラック企業とのたたかい方』という本です。大久保修一弁護士との共著で、旬報社刊、コミック部分は重松延寿さんの作画です。

DMUブログの過去記事や、青林堂刊『ブラックユニオン』(新田龍著)でも言及があったと思いますが、この本に収録されているマンガ作品は、野村さんや井ノ口副社長ら関係者、プレカリアートユニオンや引越社ら関係団体が明確にそれとわかる形でモチーフにされています。当然ながら、井ノ口さんは名前こそ違うものの、映画『アリ地獄天国』と同様、一面的な悪として、また幾分か滑稽な感じでも描かれています。

佐々木亮さんが執筆された本のまえがきの部分には野村さんの実名も出てきますし、「彼の全面的な協力を得て、この本は制作された」という記載もあります。

しかし、私たちは、「この本は野村さんの了承を取らずに制作・出版されたものではないか」「少なくとも、『全面的に関わっている』とは言えないのではないか」という疑いを以前から持っていました。

なぜなら、この本が出た頃にはもう野村さんは全く組合事務所に顔を出すことがなく、誰も連絡が取れない状態だったからです。私も、この本が出た時に嬉しくて(また、いずれ野村さんは戻って来るものだと思っていたので)、「本にサインをしてほしい」とメールをしたけれども、何も返事がなかったことを覚えています。野村さんへの反対尋問で、被告側弁護士もそこを衝いたのでした。

私は、佐々木亮さんがあんなに動揺しているのを見たのは初めてです。

『まんがでゼロからわかる~』の本のことを持ち出されると、「それは本件とは関連性がありません!」と異議を申し立て、被告側弁護士と相当激しい応酬になり、明らかに焦っているようでした。

しかし、裁判官が、「関連性があるかないか、もう少し聞いてみたいので続けて下さい」と発言し、異議は却下されました。

被告であれ原告であれ、誰でもそうだと思いますが、主尋問には手慣れた感じでハキハキと答えていた野村さんも、反対尋問になると歯切れ悪く、煮えきらない返答で、見ていてちょっとかわいそうになりました。

「これはやっぱり、野村さんはこの本の出版のことをよく知らされていなかったのだな」「つまり、特にこの本に限っての『協力』だの『取材』だのといったものは存在しなかったのだな」と誰でも想像できたと思います。

佐々木さんも、1年も経ってから取って付けたように、野村さんとのツーショットをツイッターに上げて出版を記念するなど、どう考えてもおかしいです。

被告代理人
 弁護士・大山京氏
「(原告は、青林堂がプレカリアートユニオンへの取材なく書籍を出版したことを問題とされていましたが)それでは、佐々木弁護士の方では、書籍を出版するにあたって、引越社・井ノ口副社長へ取材をしたという話は聞いていますか?」

原 告
 野村泰弘氏
「・・・・聞いておりません」

そもそも、野村氏とプレカリアートユニオンは、「青林堂が、野村氏やプレカリアートユニオンに取材すらせずに、引越社の主張を鵜呑みにして書籍を出版したこと」を問題にしていました。

それなのに、対抗言論として引越社を批判する書籍を出版した野村氏・佐々木亮弁護士の側も、まったく同じように、相手方である引越社に対して取材することすらしないで、対立当事者の一方的な主張を前提として書籍を出していたことがわかったのです。

この瞬間、被告席や傍聴席から、風のような失笑が巻き起こり、間もなく、裁判は閉廷しました。

私や前田さんやTさんが、かつてのプレカリの仲間として残念だったのは、野村さんが被告側弁護士に、「組合員からの連絡を無視したりということはありませんか?」と訊かれて、「していない」と嘘を答えたことです。

また、「引越社退職後、プレカリの専従になったのですか?」という問いにも、「なっていない」と返答されました。

しかし、プレカリアートユニオンの執行委員会議事録にも、「野村さんとOさんが、4月から専従になった。」と記載されています。当事者尋問でも、ウソをつけば過料に処される(民訴法第209条1)ことになるのですが、大丈夫なのでしょうか。

開廷前に、私とTさんとで、「野村さんは組合費も滞納していた。PUに脱退届を出したのかどうか知りたい」「多分、今でも脱退はしていない。清水が逃さないだろうし、脱退していたら原告として出廷できないのでは?」という話をしていました。

野村さんは法廷で何度か、「今でも、加入状態にある」「組合員である」と答えていました。その度に、傍聴席の私たちは顔を見合わせました。

被告側弁護士は、「野村さんが今でも本当に、組合員としての実態があるのか」を法廷ではっきりさせたかったのでしょう。

私たちは「ない」と知っています。

閉廷後、地裁のエレベーター乗り場で被告側関係者と出会ったので、簡単に挨拶をしました。

「なんで私が青林堂の人たちに挨拶をしているのだろう。我ながら奇妙なことになったものだなあ」と思い巡らしていると、廊下の先を野村氏や佐々木弁護士たちが足早に通り過ぎて行きました。

誰も見向きもせず。「一言くらい声をかけてくれてもいいのにな」と思いました。

(組合員・名倉)

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