訴状(令和2年6月11日)

訴   状

令和2年6月11日

東京地方裁判所民事部 御中

原  告          X1
原  告          X2

当事者の表示 別紙当事者目録のとおり

総会決議不存在確認等請求事件
訴訟物の価額         480万円
貼用印紙額          2万9000円

第1  請求の趣旨

(主位的請求)
1  平成30年9月8日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載1の決議が不存在であることを確認する。
2  令和元年6月23日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載2の決議が不存在であることを確認する。
3  令和元年9月15日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載3の決議が不存在であることを確認する。
4  訴訟費用は被告の負担とする。
(予備的請求)
1  平成30年9月8日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載1の決議が無効であることを確認する。
2  令和元年6月23日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載2の決議が無効であることを確認する。
3  令和元年9月15日に開催された被告プレカリアートユニオンの総会における別紙総会決議目録記載3の決議が無効であることを確認する。
4  訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。

第2  請求の原因

1  当事者

(1)  原告らは,被告プレカリアートユニオン(以下「被告ユニオン」)の組合員である。
原告X1は,平成30年2月頃,東京家裁の決定により父の氏を称する入籍をなし,その姓を「前田」から「X1」へと改めた。しかし,原告X1は,被告ユニオンでの活動上は,便宜上,被告ユニオンに加入した平成28年当時の姓である「前田」を引き続き使用している。

(2)  被告プレカリアートユニオンは,東京都渋谷区に本拠を置く労働組合である。個人加盟を原則とし,200名前後の組合員を擁する。

(3)  訴外清水直子氏ことY1(以下「Y1」)は,原告らと同様,被告ユニオンの地域ブロック支部に所属する被告ユニオンの組合員で,被告ユニオンの執行委員長を自称する者である。
 Y1は,被告ユニオンの結成以来その代表者を務めていた訴外M氏が退任して以来,労働組合法及び被告ユニオンの規約に基づいた適法な手続によらず被告ユニオンの代表者(執行委員長)を僭称し,そのようなY1に対する役員報酬であるとして,少なくとも年額640万円の金員を引き出し,自らの生活費あるいは遊興費としている。
 Y1は,婚姻前の姓である「清水」を通称として使用している。

(4)  訴外BことY2(以下「Y2」)は,被告ユニオンの書記長あるいは副執行委員長であると自称する者である。
 Y2は,Y1に勧誘されて被告ユニオンに加入したというが,その直後から,Y1と結託して,被告ユニオンの総会において適法に選任されていないにもかかわらず,自らが被告ユニオンの書記長あるいは副執行委員長であるとして,その役員報酬あるいは賃金として少なくとも年額400万円の金員を引き出し,自らの生活費あるいは遊興費としている。
 Y2は,「B」なる変名を名乗っている。

2  被告ユニオンの規約

 被告ユニオンには,組合と各組合員との間の権利義務関係を規律する規約が存在する(甲1)。選挙大会規定(甲2)は,規約第12条,第23条及び第24条の委任規定に基づいて,被告ユニオンにおける総会の手続を規律するものである。
 上記のうち,本件と密接に関連する部分は,次の箇所である。

(1) 規約第5条(権利)
1 (省略)
2 組合員は,この規約に基づき,平等に,すべての問題に参与し,均等の取り扱いを受ける権利を有する。
(2) 規約第6条(義務)
組合員は,すべて次の義務を負う。
① 規約及び大会の議決に従い,機関の統制に服する義務
② 組合費及び機関で決定したその他賦課金を定められた期日までに納める義務
③ 規約に基づく各会議に出席する義務
④ 組合の機密をもらさない義務
(3) 規約第7条(統制および表彰)
1 組合員に次の各号に該当する行為のあった場合は制裁を受ける。
① 規約,機関の決議に違反したとき
② 統制,秩序を乱したとき
③ 組合活動を乱したとき
④ 組合員としての適格性を欠き,また義務を怠ったとき
⑤ 組合の名誉を毀損したとき
⑥ (省略)
2 制裁は,次の4種類とする。
⑦ (省略)
⑧ (省略)
⑨ 権利停止  組合員としての義務はあるが,権利を一定期間失う
⑩ (省略)
3 厳重注意,解任,権利停止については,執行委員会で決定し,除名については,賞統制委員会の審議を経て,大会で決定する。ただし,本人の弁明を妨げない。
(4) 規約第10条(資格,加入,脱退)
1(省略)
2(省略)
3 組合員は,以下の場合に資格を喪失する
①(省略)
②(省略)
③(省略)
④3ヶ月以上組合費を滞納したとき。ただし,執行委員会が認めた場合はこの限りではない。
(5) 規約第12条(大会)
  1 大会は組合の最高議決機関であって,少なくとも年一回定期に,また,必要に応じて臨時に開催し,組合員の直接無記名投票で選出された代議員と執行委員によって構成する。
大会の招集は執行委員会が行い,大会運営委員は執行委員会が任命する。代議員の選出は別にこれを定める。
2 (省略)
(6) 規約第17条(役員)
1 組合役員は,執行委員長,副執行委員長,書記長(以上三役),書記次長,執行委員,会計,会計監査をもって構成し,大会において代議員の直接無記名投票によって選ぶ。
 任期は次期大会までとし,再任は妨げない。組合には,組合運営の発展のために,労働運動,社会運動の経験者を顧問とすることができる。
2 (省略)
(7) 規約第18条(職務)
役員の職務は,次のとおりとする。
①執行委員長  組合を代表し,業務を統括する。
②副執行委員長 執行委員長を補佐し,執行委員長に事故あるときはその職務を代行する
③書記長    執行委員長,副執行委員長を補佐するとともに,組合の日常的な業務を執行し,文書及び記録の整理・保管にあたり,書記局会議を招集し主催する。
④(以下略)
(8) 規約第22条(財政と組合費,寄付金,拠出金等)
1 (省略)
2 (省略)
3 会計の正確を期すため会計監査をおき,常時監督する。すべての財源及び使途,主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は,組合員によって委嘱された職業的資格のある会計監査人によって正確であることの証明書とともに,少なくとも毎年1回組合員に公表する。
(9) 規約第23条(その他規定)
 本規約に基づき,別に以下の規定を定める。
①選挙・大会規定
②(省略)
(10) 規約第24条(規約,規定の改廃)
1 本規約と「選挙・大会規定」,「支部分会運営規定」の改廃は,組合員の直接無記名投票によって選挙された代議員の直接無記名投票により,代議員総数の過半数の支持を得なければならない。
2 (省略)
(11) 選挙大会規定第1条
 組合規約第24条に基づき,選挙と大会はこの規定により行う。
(12) 選挙大会規定第2条
 組合員は,この規定の定めるところによって,選挙権,被選挙権を行使することができる。
ただし,選挙告示以降の加入者,及び執行委員会,賞統制委員会により権利停止処分を受けている者はこれを認めない。
(13) 選挙大会規定第3条
 大会及び支部代表者会議を臨時に開催するときは次の基準による。
1 大会
①支部代表者会議の議決で請求があったとき
②組合員の3分の1以上の連署により理由を明らかにして請求があったとき
③執行委員会が必要と認めたとき
2 支部分会代表者会議
(省略)
(14) 選挙大会規定第4条
 大会運営委員会は執行委員会によって任命され,選挙に関する一切の権限をもつ。
(15) 選挙大会規定第5条
 本部三役,会計,執行委員,会計監査委員,賞統制委員の選挙は,大会において代議員の直接無記名投票による選挙を行う。
(16) 選挙大会規定第10条
 大会代議員は,支部分会の組合員数により以下の通りとし,各支部分会ごとに組合員の直接無記名投票により選出する。
(表略)

3  原被告間の労働争議の経緯

(1) 原告らは,原告X1について平成28年6月頃,原告X2について平成29年6月頃に加入した被告ユニオンの組合員である。原告らは,いずれも,被告ユニオンの地域ブロック支部に所属している。

(2) 原告らは,原告X1について平成30年5月頃,原告X2について同10月頃,被告ユニオンのアルバイトとして雇用された。
 原告らは,いずれも1000円ないし1500円の時給を受けて,被告ユニオンに勤務していた。

(3) ところが,被告ユニオンは,豊富な現預金等資産を有しており,Y1及びY2には高額な報酬を支払っているにもかかわらず,原告らアルバイトに対しては残業代を一切支給せず,有給休暇等も付与してこなかった。
 原告X1は,労働組合でありながらアルバイトである原告らに残業代を支払わず,有給休暇も付与しないという被告ユニオンの労働環境に不満を抱く一方,被告ユニオンで勤務する間,被告ユニオンの総会決議に至るまでの手続の一切を現認したことから,原告らを含む被告ユニオンの組合員に役員立候補等の機会を一切与えないなど重大な瑕疵が多数あることに気づき,Y1及びY2が正当に選任された被告ユニオンの役員であるとはいえず,その法的地位に疑義があると考えるようになった。
 その後,原告X1は,被告ユニオンにおける労働条件の向上について団体交渉を通じて交渉することを決意し,原告X2も,原告X1の勧誘に応じ,組合結成を準備し始めた。
 原告らは,組合結成にあたって被告ユニオンに対する要求事項を協議したが,被告ユニオンにおける総会決議上の違法を放置すれば,原告らと被告ユニオンとの間での雇用契約ひいては労働協約の効力が不確定となり団体交渉の成果が空無に帰しかねないばかりか,Y1及びY2が何ら根拠なく自らの「行動費」として毎年1000万円以上を引き出し,それを毎月のように増額していたところ,それによって原告ら従業員の残業代又は賃上げの原資が不足するなどして損害が及ぶ虞があると考えた。
 そのため,被告ユニオンに対する団体交渉の申し入れにあたっては,その総会を規約に則って適法に開催することも要求に盛り込み(甲3,15頁),団体交渉申入書の提出と同時に,Y1個人に対しても,被告ユニオンから不正に引き出した金員の原状回復及び臨時大会(総会)の適法な開催を要求することにした。

(4) 平成31年3月2日,原告らは,訴外DMU(「デモクラティック・ユニオン」,名称変更により現在は「DMU総合研究所」)を結成した。

(5) 3月9日,訴外DMUは,被告ユニオンに対して,団体交渉申入書(甲3)を交付した。
 訴外DMUは,団体交渉の申し入れと同時に,Y1に対して「警告書」(甲4)を交付し,総会の決議なく被告ユニオンから引き出した金員を返還し,直ちに適法な総会(臨時大会)を開催すること又は裁判所に対して仮理事の選任を申し立てることを要求した。

(6) 3月13日,Y1は,被告ユニオンのアルバイトである原告X1は労働者ではないとして,団体交渉を拒否する旨の意思を通知した(甲5)。

(7) 3月18日,Y1は,原告X1の訴外DMUにおける活動が「分派活動」であり,それが被告ユニオンの規約に違反するとして,原告X1を1年間の権利停止処分に付し,以後の就労を拒絶し,解雇予告手当を一切支払わなかった(甲6)。
 これにより,被告ユニオンは,原告X1を懲戒解雇又は解雇した。

(8) 訴外DMUは,被告ユニオンの団交拒否について3月15日,原告X1に対する懲戒解雇について3月18日,東京都労働委員会(都労委)に対し,救済命令を求めて不当労働行為の調査を申し立てた。
 これを受け,都労委は,訴外DMUと被告ユニオンを当事者とする不当労働行為調査の開始を決定した(甲7)。
 7月19日,都労委は,被告ユニオンの代表権の所在に疑義ありとする訴外DMUの申立を受け,Y1を被申立人に追加する決定をした(甲8)。

(9) Y1及びY2は,その後も,原告らに対して,別の統制処分等の理由を次々と作出しては規約に基づく権利行使を妨害し,何ら根拠なく被告ユニオンの資金を引き出してこれを着服し,組合員である原告らに対して公開義務のある会計を隠蔽している。
 被告ユニオンでは,現在に至るも,適法な総会及び役員選任の手続が一切実施されていない。

第3  被告ユニオンにおける平成30年9月8日開催に係る総会のY1及びY2を本部役員に選任する旨等の決議が不存在又は無効であること

1  平成30年9月8日,Y1及びY2らは,被告ユニオンの総会(別紙総会決議目録記載1の第7回定期大会,以下「本件第1次総会」という)を開催した(甲9,2頁中段の「2.プレカリアートユニオン第7回定期大会開催のご報告」以下)。
 しかしながら,この総会には,次のとおり被告ユニオンの規約に違反する瑕疵が認められ,それらの瑕疵が重大なものでなく,かつ,明らかに決議等の内容に影響を及ぼさないと認められる特段の事情は存在しないから,いずれの決議についても,不存在又は無効なものとなる。

2  被告ユニオンの執行委員会において本件第1次総会のための大会運営委員が選任された事実は存在しないところ,本件第1次総会は,何らの権原もないY1及びY2が開催した。
 しかしながら,被告ユニオンにおいて,総会の運営に係る一切の手続は,規約の委任規定に基づいて選挙大会規定により行われる(同規定1条)ところ,同規定によれば,大会運営上の一切の権限を持つ大会運営委員は,執行委員会によって任命されなければならない(同第4条)。
 したがって,上記事実は,選挙大会規定第4条に違反する手続上の瑕疵となる。

3  本件第1次総会では,被告ユニオンの地域ブロック支部に所属する原告X1に対して,本件第1次総会の代議員を選出するための直接無記名投票が開催されなかった。
 それどころか,Y1及びY2は,原告ら地域ブロック支部の組合員に無断で,地域ブロック支部の代議員を指名していた。これにより,Y1及びY2に指名されなかった原告X1においては,本件第1次総会において,直接的にも間接的にも,選挙権を行使することができなかった。
 しかしながら,被告ユニオンでは,総会における本部三役,会計,会計監査委員,賞統制委員の選挙は,いずれも代議員の直接無記名投票により行い(選挙大会規定第5条),代議員の選出は,各支部・分会ごとに行い(同第7条),その投票は支部・分会に所属する組合員の直接無記名投票による(同第10条)。
 したがって,本件第1次総会では,それらの全てが実施されなかったのであるから,上記事実は,選挙大会規定第5条,第7条,第10条に違反する手続上の瑕疵となる。

4  Y1及びY2は,原告らに対して,本件第1次総会で選挙される本部役員又は所属する地域ブロック支部の代議員として立候補する機会を与えなかった。
 しかしながら,被告ユニオンにおいて,組合員は,選挙大会規定に従って,被選挙権を行使することができる。この被選挙権には,所属する支部・分会の代議員として立候補する権利と,本部役員(選挙大会規定第8条)として立候補する権利の両方を含むものと解される。
 したがって,原告らは,本件第1次総会において,地域ブロック支部の代議員又は本部役員として立候補する機会をいずれも与えられず,被選挙権を行使することができなかったのであるから,上記事実は,選挙大会規定第2条に違反する手続上の瑕疵となる。

5  その後,Y1及びY2らは,自らが本部役員(執行委員長・書記長)に選任されたとして,被告ユニオンの事務所を占拠している。
 しかも,Y1及びY2は,同氏らが作出した決議内容を前提としても役員報酬に係る決議がされていないにもかかわらず,氏らの「行動費」と称しては数百ないし数千万円もの資金を被告ユニオンから引き出して着服し,同氏らの生活費あるいは遊興費とした。

第4  被告ユニオンにおける令和元年6月18日開催に係る総会のY1及びY2本部役員に選任する旨等の決議が不存在又は無効であること

1  3月9日,原告らは,訴外DMUを結成し,被告ユニオンに団体交渉を申し入れ,Y1に対しては,被告ユニオンから引き出した金員の原状回復を求めた(甲3,甲4)。
 すると,Y1及びY2は,訴外DMUの活動が「分派活動」であるので原告らを「権利停止処分」に付したとして被告ユニオンから排除した上で(甲6),原告ら及び訴外DMUが指摘した被告ユニオンにおける総会運営上の瑕疵を治癒し,過去の全ての総会及び執行委員会の決議を「追認」するとして,令和元年6月18日,被告ユニオンの総会たる臨時大会を開催した(甲10,別紙総会決議目録記載2の臨時大会,以下「本件第2次総会」)。
 しかしながら,この総会には,次のとおり被告ユニオンの規約に違反する瑕疵が認められ,それらの瑕疵が重大なものでなく,かつ,明らかに決議等の内容に影響を及ぼさないと認められる特段の事情は存在しないから,いずれの決議についても,不存在又は無効なものとなる。

2  被告ユニオンの執行委員会が本件第2次総会の大会運営委員を選任した事実は存在しないところ,本件第2次総会は,もっぱら,Y1及びY2が開催したものである。
 他方で,Y1らが作出した被告ユニオンの議事録を見ると,本件第2次総会の開催中にY2が大会運営委員に選任されているようである。
 しかしながら,被告ユニオンにおいて,総会は,執行委員会に任命された大会運営委員が全ての権限を持ち,開催するものである(選挙大会規定第4条)。
 したがって,上記事実は,選挙大会規定第4条に違反する手続上の瑕疵となる。

3  被告ユニオンでは,臨時大会を開催するためには,①支部代表者会議の議決による請求②組合員の3分の1以上の連署による請求③執行委員会による必要と認める旨の決議の少なくとも1つが必要である(選挙大会規定第3条1項)。
 しかしながら,本件では,①ないし③の事情のいずれの事象も発生していない。
 したがって,Y1及びY2が本件第2次総会を開催したことは,被告ユニオン選挙大会規定第3条1項に違反する手続上の瑕疵となる。

4  Y1及びY2は,本件第2次総会でも,被告ユニオンの地域ブロック支部に所属する原告らに対して本件第1次総会の代議員を選出するための直接無記名投票を開催せず,それどころか,同氏らは,原告ら地域ブロック支部の組合員に無断で,地域ブロック支部の代議員を指名した。
 しかしながら,被告ユニオンでは,総会における本部三役,会計,会計監査委員,賞統制委員の選挙は,いずれも代議員の直接無記名投票により行い(選挙大会規定第5条),代議員の選出は,各支部・分会ごとに行い(同第7条),その投票は,支部・分会に所属する組合員の直接無記名投票による(同第10条)。
 したがって,本件第2次総会では,それらの全てが実施されなかったのであるから,上記事実は,選挙大会規定第5条,第7条,第10条に違反する手続上の瑕疵となる。

5  Y1及びY2は,本件第2次総会においても,原告らに対して,本件第1次総会で選挙される本部役員又は地域ブロック支部の代議員として立候補する機会を与えなかった。
 そこで,原告X1は,被告ユニオンの事務所に赴き,本件第2次総会の会場において直接本部役員に立候補しようとしたが,Y1及びY2は,他の代議員でない組合員には総会への入場を認めながら,原告X1に対してのみ原告X1が不法侵入をしていると偽って警察を呼ぶなどして,実力で原告X1の入場及び立候補を阻止した。
 しかしながら,被告ユニオンの規約においては,総会への出席は組合員の義務であるから(規約第6条3及び第7条2の3),権利停止処分に関するY1及びY2の見解を前提としても,原告らは,本件第2次総会に出席する資格を有していた。
 したがって,原告らは,本件第2次総会で選挙権及び被選挙権を行使できなかったのであるから,上記事実は,規約第5条2項及び選挙大会規定第2条に違反する手続上の瑕疵となる。

6  原告X1が本件第2次総会の会場に赴いた際出席していた者のうち少なくとも2名(K氏,U氏)は,被告ユニオンの組合費を3ヶ月以上滞納したことから,被告ユニオン組合員を当然に失格した者であった(甲11及び規約第10条1項)。
 しかしながら,被告ユニオンにおいては,その総会の決議は,各支部又は分会において選出された代議員によるものであり,非組合員の出席が認められる余地はない。
 したがって,上記事実は,選挙大会規定第2条,5条及び12条に違反する手続上の瑕疵となる。

7  本件第2次総会に係る出席代議員名簿を見ると,Y1及びY2ら11名が代議員とされ,総会に出席し,議決権を行使していたことが伺える(甲10,甲12の2)が,上記11名は,所属する支部又は分会において,代議員に選出されていない。
 しかしながら,被告ユニオンにおいて,総会の代議員は,所属する支部または分会の組合員による直接無記名投票で選出される必要がある。被告ユニオンの役員であっても,所属する支部または分会で代議員に選出されない限りは,総会で議決権を行使することはできない。
 したがって,上記事実は,選挙大会規定第2条,第5条及び第12条に違反する手続上の瑕疵となる。

8  このように,本件第2次総会の決議はいずれも不存在又は無効なものであるが,Y1及びY2は,本件第2次総会において本部役員(執行委員長・副執行委員長)に選任され,かつ,本件第1次総会の決議が追認されたなどとして,被告ユニオンの事務所を占拠している。
 しかも,Y1及びY2は,同氏らが作出した決議内容を前提としても役員報酬に係る決議がされていないにもかかわらず,「行動費」と称しては数百ないし数千万円もの資金を被告ユニオンから引き出して着服し,同氏らの生活費あるいは遊興費とした。

第5  被告ユニオンにおける令和元年9月18日開催に係る総会のY1及びY2を本部役員に選任する旨等の決議が不存在又は無効であること

1  令和元年9月18日,Y1及びY2は,被告ユニオンの総会たる第8回定期大会を開催した(別紙総会決議目録記載3の本件第3次総会,甲13)。
 しかしながら,この総会には,次のとおり,裁判上の和解違反及び被告ユニオンの規約に違反する瑕疵が認められ,それらの瑕疵が重大なものでなく,かつ,明らかに決議等の内容に影響を及ぼさないと認められる特段の事情は存在しないから,いずれの決議についても,不存在又は無効なものとなる。

2  被告ユニオンの執行委員会によって本件第3次総会の大会運営委員が選任された事実はないところ,本件第3次総会は,もっぱら,Y1及びY2が開催したものである。
 しかしながら,被告ユニオンにおいて,総会は執行委員会に任命された大会運営委員が全ての権限を持ち,開催するものである(選挙大会規定第4条)。
 したがって,上記事実は,選挙大会規定第4条に違反する手続上の瑕疵となる。

3  Y1及びY2は,本件第3次総会においても,原告らに対して,所属する地域ブロック支部の代議員に立候補する機会及び代議員を選挙する機会を与えなかった。
 しかしながら,被告ユニオンでは,総会における本部三役,会計,会計監査委員,賞統制委員の選挙は,いずれも代議員の直接無記名投票により行い(選挙大会規定第5条),代議員の選出は,各支部・分会ごとに行い(同第7条),その投票は,支部・分会に所属する組合員の直接無記名投票による(同第10条)。
 したがって,原告らは,本件第3次総会でも選挙権及び被選挙権を行使できなかったのであるから,上記事実は,選挙大会規定第5条,第7条及び第10条に違反する手続上の瑕疵となる。

4  令和元年9月14日,Y1及びY2は,原告らを「権利停止処分」に付しているとして,原告らの本件第3次総会への出席を認めない旨の書面を送りつけてきた(甲14)。
 原告らに対する「権利停止処分」は,もとより不存在又は無効なものであるが,被告ユニオンの規約においては,総会への出席は組合員の義務であるから(規約第6条3及び第7条2の3),「権利停止処分」に関するY1及びY2の見解を前提としても,原告らは,本件第3次総会に出席する資格があった。
 ところが,Y1及びY2は,他の代議員でない組合員には総会会場への入場及び発言を認めながら,①原告X1の役員(会計監査)への立候補を拒絶し(甲14),②原告X1に会計を閲覧させず,③原告X1の本件第3次総会への入場を,本件第2次総会と同様の方法で妨害した。
 したがって,上記事実は,被告ユニオン規約第5条2項及び選挙大会規定第2条に違反する手続上の瑕疵となる。

5  他方,原告X2は,被告ユニオンが主張する「権利停止処分」が不当労働行為であると考えたことから,被告ユニオンを相手取って,御庁に対して,本件第3次総会に原告X2が出席することを妨害してはならない旨の保全命令を求め,仮処分申請に及んだ(御庁令和元年(ヨ)第21092号)。
 その後,上記仮処分申請は,被告ユニオンが,原告X2に対し,本件定期大会に出席することを認める旨の裁判上の和解をすることによって終結した(甲15)。

6  ところが,Y1及びY2は,上記裁判上の和解にもかかわらず,原告X2が本件第3次総会に出席することを妨害した。
 具体的には,①原告X2が被告ユニオンの役員として立候補することを妨害し,②原告X2に会計を閲覧させず,③原告X2が発言,質問することを妨害した。
 Y1及びY2による上記行為は裁判上の和解違反の不法行為であるところ,本件第3次総会の決議は,その全部が,当然に不存在又は無効となる。

7  その後も,Y1及びY2は,自らが本部役員(執行委員長・副執行委員長)に選任されたとして,被告ユニオンの事務所を占拠している。
 しかも,Y1及びY2は,同氏らが作出した決議内容を前提としても役員報酬に係る決議がされていないにもかかわらず,「行動費」と称しては数百ないし数千万円もの資金を被告ユニオンから引き出して着服し,同氏らの生活費あるいは遊興費としている。

第6  労働組合における総会決議の効力に関する判断の枠組みと本件に対する当てはめ

1  労働組合法5条2項5号は,「単位労働組合にあっては,その役員は,組合員の直接無記名投票により選挙されること,及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあっては,その役員は,単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること」を労働組合の規約の必要的記載事項としているところ,被告ユニオンの規約にも,これと同旨の規定が置かれている(第12条)。

2  労働組合の規約は,組合員と労働組合との間の権利義務関係を規律する契約の内容であるところ,総会における労働組合の役員を選任する決議は,選任された役員と労働組合との間に委任の法律関係を創設するものである。

3  しかも,被告ユニオンにおいては,Y1及びY2が,同氏らの役員報酬あるいは賃金という口実において合計1000万円以上にも及ぶ金員を毎年被告ユニオンから引き出しているのであるから,そのような高額の報酬を受領すべき地位である被告ユニオン役員の選任に係る手続が規約に基づいて民主的に実施される必要があることは論を俟たない。
 万が一,この役員選挙が規約に則して民主的に実施されなかった場合,原則として,その決議は不存在か少なくとも無効となる。
 例えば,労働組合における役員選挙の当選を無効とした全日本海員組合事件(東京地判平成24年1月24日労判1046号5頁,労経速2135号7頁)において,裁判所は,

「団体内部における意思決定手段としての決議等に違法がある場合,それが手続上のものであろうが,決議の内容上のものであろうが違法であることに変わりはなく,その効力は否定されるのが原則である。
ところで,会社法は,その830条及び831条において決議内容の法令違反と手続上の法令違反(及び決議内容の定款違反)とに分け,前者は決議の無効事由となるが,後者については決議の取消事由に止め,決議取消事由がある場合においてもそれが取消判決によって取り消されない限り有効として扱い(決議取消訴訟はいわゆる形成訴訟の形を採っている。),その出訴期間や提訴権者についても限定を加えているところ,これは,会社における総会決議の有効性が株主,取引先等多数の者の利害に影響を及ぼすことから,法的安定性の観点に照らし,その早期ないし画一的な処理を図る趣旨に出たものであって,前記規定は,多数の利害関係者を擁する会社の社会的な特質に根ざした特則規定であると解される。
そして,前記規定は,会社以外の団体にも適宜準用されているが(例えば中小企業等協同組合法,農業協同組合法など),これらは,その団体の特質から,総会決議に関しては会社と同様の法規制に服させるのが相当であるとの立法判断に出たものと考えられる。このようにみると,前記会社法の規定の準用がない労働組合のような団体においては,前記原則にかえり,決議等に違法がある場合,それが手続上のものであるか内容上のものであるかを問わず,原則として無効事由となると解するのが相当である(少なくとも,会社法830条,831条の準用のない団体において,手続上の違法を一律に不問に付する合理的な理由はない)。
もっとも,決議等の内容について違法がある場合はともかく,手続上の違法には極めて軽微なものも存し,そのすべてが決議の無効をきたすとすれば法的安定性を損なうおそれも否定できないことから,それが重大なものでなく,かつ,明らかに決議等の内容に影響を及ぼさないと認められる特段の事情がある場合には,例外的に決議等の無効事由とならないものと解される」

と説示した。

4  以上示したとおり,被告ユニオンでは,本件各総会のために規約所定の手続が実施されていない。被告ユニオン自身,本件第1次総会については,そのことを別件仮処分申請において自認している(甲16,5頁)。
 本件において上記法理の適用を否定すべき特段の事情も存在しないところ,Y1及びY2らによる違法な総会決議を有効と解すべき理由は何もない。

第7  被告ユニオン並びにY1及びY2に想定される反論に理由がないこと

1  Y1は,原告らが上記述べたとおり,被告ユニオンの総会を適法に開催せず,被告ユニオンの資産を自らの生活費あるいは遊興費とすることだけを目的として被告ユニオンを私物化しているところ,平成31年3月13日,訴外DMUが交付した団体交渉申入書及び警告書(甲3,4)に対する反論として,原告X1に対して,「回答書」と題する書面を送りつけてきた(甲5)。
 同書面によれば,Y1は「プレカリアートユニオンの定期大会は正式に成立し,組合員も定期大会であると認識し,定期大会で選出された代表者,執行部が実際に組合の運営を執行しています。東京都労働委員会から資格審査証も発行されています。」と主張し,それをもって被告ユニオンの代表者であることを裏付けるようであるが,失当である。
 すなわち,被告ユニオンは都労委から「資格審査証」(労働組合資格証明書)を発行されているが,同証明書は,被告ユニオンの規約が自主性要件(労組法2条)を満たすこと及び組合民主主義に即した規約を置くこと(労組法5条2項)に関する書類上の形式審査を経て発行されるものであり,それによって,実際に規約に即した役員選出等の手続が行なわれていることを示すものではない。
 また,Y1は,Y1が実際に被告ユニオンの業務を執行していることがY1の代表権を裏付けると主張しているようであるが,かかる主張は,人の物を盗んだ者が,実際にその物を占有していることを理由として所有権原を主張するがごとき荒唐無稽のものであり,失当である。
 Y1が,原告らを排除して被告ユニオンを実力で占拠し,私物化しているのも,被告ユニオンが入居する共同事務所である「ユニオン運動センター」を管理しているのがY1の夫である訴外Y氏であり,Y1の意に沿わない組合員を締め出すことが物理的に可能であるからにすぎない。

2  被告ユニオンは,別件保全事件において,原告X1が平成28年6月に被告ユニオンに加入して以降,被告ユニオンの総会決議の瑕疵を現認しながら平成31年3月9日に至るまで異議を述べなかったこと,あるいは,原告X1が被告ユニオンの代議員に立候補したことが一度もなく,被告ユニオンの総会に参加したこともないことを理由として,本件各総会の効力に係る原告X1の主張は「分派活動」を実現する手段にすぎないと論難した(甲16,6頁)。
 しかしながら,原告X1は,被告ユニオンの総会決議の瑕疵を現認しながら,それを黙認していたわけではない。
 そもそも,地域合同労組である被告ユニオンにおいて,各々の職場で働いている個別の組合員が総会決議に係る手続の適正を確認する機会はほとんどなく,原告らにおいても,被告ユニオンから送付されてくる書面又は電子メール以外には,総会決議に係る手続の適否を検討するための材料は一切なかった。また,被告ユニオンは,原告ら組合員に対して,総会の議事録を公開していない(甲10は,別件保全事件で被告ユニオンが証拠提出してきたものである)。
 しかも,Y1は,被告ユニオンの総会の開催に先だって,毎年,「定期大会のご案内」なる書面を作成し,原告ら組合員に送付していた(本件第1次総会に係る書面について甲17)。
 この書面は,「各支部で選出された代議員」の「当日出席できない方」に対して委任状の事前提出を徴求する趣旨を含むものであり,かつ,(各支部で選出された)代議員に対して,「代議員証」と「委任状」を送付することの予告をも兼ねるものであった。他方,代議員に選出されなかった組合員については,総会で「傍聴参加して発言」できる旨の記載しかなかった。
 原告X1は,Y1が作成した上記書面を素直に理解した結果,被告ユニオンにおいて既に代議員選出等の手続は終了しており,総会に参加しても「傍聴参加して発言」することしかできないと考えた。そこで,原告らは,職場で休暇を取得することに伴う経済的な負担に見合わないことから,毎年,総会への出席を断念していたにすぎない。また,原告X1は,本件第1次総会については,被告ユニオンに在職していたことから参加を検討していたが,同日にY1から組合外におけるセミナーの受講を命じられたため,参加することができなかった。
 なお,被告ユニオンは,上記書面をもって「黙示的に代議員を募っていた」と主張する(甲16,5頁下段)が,上記のとおり,一般的な注意と理解力をもって読めば代議員の選出手続は既に終了していると読み取れる記載であり,失当である。

 原告らが平成31年3月9日以前に被告ユニオンの総会決議に係る瑕疵を指摘しなかった理由は次の通りである。
 すなわち,原告X1は,平成30年5月に被告ユニオンのアルバイトとなったが,被告ユニオンで勤務していた同8月頃,Y1及びY2らが,各支部・分会での代議員の選出手続を一切開催していないのに,「代議員になってほしい。」などとして,同氏らにとって都合の良い組合員を恣意的に選び,次々と電話をかける様子を目撃した。
 原告X1は,これが規約違反にあたるのではないかとの疑いを抱き,被告ユニオン規約等を精査したところ,その確信を得た。
 しかし,Y1及びY2が上記規約違反によって多大な経済的利益を得ている以上,そのことを原告X1が指摘すれば同氏らが原告X1を敵視することが当然に予見され,ひいては原告X1に対する報復としての解雇を招来し,原告X1の生計が危殆に陥りかねないという懸念があった。
 そこで,原告X1は,それらの瑕疵を即座に指摘するのではなく,労組法上の保護を受けるため,原告X2を説得して訴外DMUを結成するのを俟ち,団体交渉における要求事項の一環として総会の適法な開催を求めたものであり,それは何ら不当なものではない。

3  本件では,被告ユニオン自身が,別件保全事件において,①本件第1次総会において各支部・分会ごとの直接無記名投票による代議員選挙をしていなかったこと及び②代議員を結局はY1が指名したことを認めている(甲16)。
 そのような瑕疵が総会決議の内容に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから,本件第1次総会におけるY1及びY2らを選任する決議は当然に不存在又は無効である。
 したがって,被告ユニオンに対して何らの権利もないY1及びY2が一方的に開催した本件第2次及び第3次総会における同人らの選任決議も,当然,不存在又は無効となる。

第8  結論

 よって,原告らは,被告に対して,請求の趣旨記載の判決を求める。

証 拠 方 法

 証拠説明書のとおり。

附 属 書 類

1 訴状副本  1通
2 甲号証(写し) 各2通
3 被告資格証明書  1通

(別紙)

総 会 決 議 目 録

1 決議日  平成30年9月8日
決議が実施された総会 第7回定期大会(第8回大会)
決議の内容 

(1)清水直子ことY1を執行委員長に選任すること
(省略)
(3)BことY2を書記長に選任すること
(省略)

2 決議日  令和元年6月23日
決議が実施された総会 臨時大会(第9回大会)
決議の内容

(1)清水直子ことY1を執行委員長に選任すること
(省略)
(3)BことY2を副執行委員長に選任すること
(省略)

3 決議日  令和元年9月15日
決議が実施された総会 第8回定期大会(第10回大会)
決議の内容

(1)清水直子ことY1を執行委員長に選任すること
(省略)
(3)BことY2を副執行委員長に選任すること
(省略)

(別紙)

当 事 者 目 録

〒167―0053 東京都杉並区(省略)
 原    告   X1

〒133―0041 東京都江戸川区(省略)
 原    告   X2

〒151―0053 東京都渋谷区代々木4丁目29―4
西新宿ミノシマビル2階ユニオン運動センター内
 被    告   プレカリアートユニオン
 代表者代表者   Y1

error: