主 文
1 被告らは,原告X1に対し,連帯して,27万5000円及びこれに対する平成25年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告組合に対し,連帯して,33万円及びこれに対する平成25年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,別紙訴訟費用負担一覧表「負担すべき費用」欄記載の各費用を,対応する同表「負担者」欄記載の者の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告X1に対し,連帯して,1650万円及びこれに対する平成25年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告組合に対し,連帯して,1650万円及びこれに対する平成25年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告会社は,被告会社発行の週刊誌「△△△」誌及びA1新聞の朝刊東京版社会面広告欄に,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の条件でそれぞれ1回掲載せよ。
第2 事案の概要
1
本件は,労働組合である原告組合及びその執行委員長として原告組合の代表者を務める原告X1が,被告Y1において執筆し,雑誌「△△△」○○○○号(平成25年9月29日発行)(以下「本件雑誌」という。)に掲載された,原告らについて暴力団と関係があるとの内容を含む記事によって原告らの名誉を毀損されたと主張して,被告Y1及び本件雑誌を発行した被告会社に対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,各1650万円及びこれに対する本件雑誌の発行日である平成25年9月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか,又は後掲の証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告組合
原告組合は,組合員の強固な団結の力により機関決定に基づいて労働者の経済的,政治的地位の向上を図ることを目的として,セメント,生コンクリート(以下「生コン」という。)産業及び運輸,一般産業の労働者の経済的,社会的地位向上のため,必要な政治活動を行うなどの事業を行う労働組合であり,昭和52年○月○日に設立された(甲1,7)。
イ 原告X1
原告X1は,昭和59年10月20日から現在まで,執行委員長として,原告組合の代表を務める者である(弁論の全趣旨)。
ウ 被告会社
被告会社は,雑誌,書籍,新聞の編集及び発行等を目的とする株式会社であり,雑誌「△△△」を発行している(弁論の全趣旨)。
エ 被告Y1
被告Y1は,フリーランスのジャーナリストである(乙35,弁論の全趣旨)。
(2) 記事の掲載
ア 被告会社は,平成25年9月29日までに,同日を発行日とする本件雑誌を発売した(甲3,4,弁論の全趣旨)。
イ 本件雑誌には,「□□□」とのタイトルが付され,被告Y1が執筆した別紙記述目録の1ないし7記載の各記述(以下,別紙記述目録に付された各番号に対応する記述を「本件記述1」などといい,本件記述1ないし7を「本件各記述」と総称する。)を含む記事(以下「本件記事」という。)が掲載されている(甲3)。
ウ 本件記事の表題
本件記事の表題(以下「本件表題」という。)は,次のとおりである(甲3)。
「×××」
3 争点
(1) 本件各記述による原告らの社会的評価の低下の有無(争点1)
(2) 本件各記述の違法性阻却事由の存否(争点2)
(3) 損害の発生及びその額(争点3)
(4) 謝罪広告の必要性(争点4)
4 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(本件各記述による原告らの社会的評価の低下の有無)について
(原告らの主張)
本件各記述において摘示されている事実は,別紙主張一覧表の本件各記述の番号に対応する「摘示事実」欄の「原告らの主張」記載のとおりであり,原告らの社会的評価を低下させることは明らかである。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
被告らの主張は,別紙主張一覧表「摘示事実」欄の「被告らの主張」記載のとおりである。
(2) 争点2(本件各記述の違法性阻却事由の存否)について
(被告らの主張)
ア 公共性及び公益目的
セメントや生コンを製造販売する会社は,原告組合から労働者を送り込まれて争議を起こされ,長期間のストライキを決行されると,業務停止に追い込まれて倒産の危機に瀕する。そのため,労働争議を仕掛けられると,原告らに対して解決金を支払ってしまう会社が多く存在したのであり,関西のセメント業界は,原告らの行為に脅され,正常な経済活動を阻害されてきた。そのような中,被告Y1が執筆及び編集に携わっていた◇◇紙では,原告らによる生コン労働者に対する暴力的支配等について報道しており,被告Y1もこれを認識していた。
以上のとおり,本件記事の掲載は,公共の利害に関する事実に係り,掲載の目的が専ら公益を図ることにあった。
イ 真実性又は相当性
(ア) 被告Y1は,同人が執筆し,月刊誌「△△」平成22年1月号ないし3月号(乙6の1~6の3)に寄稿した原告らに関する連載記事(以下「別件連載」という。)の際に得た取材資料も踏まえて,本件記事の執筆を行った。本件記事独自の取材期間としては,平成25年3月から同年7月までの約5か月間であった。◎◎労働組合◆◆地方本部▲▲支部委員長であった亡B1(以下「亡B1」という。)を始め,合計20人に対して取材を行った。被告Y1は,取材の過程で,告発文書(乙15)を入手し,この文書の記載内容がきっかけとなって,その裏付け取材をする中で,原告らが暴力団と深い関係を有していることを確信するに至った。
(イ) 真実性又は相当性に関する主張は,別紙主張一覧表「真実性・相当性」欄の「被告らの主張」記載のとおりである。
(原告らの主張)
ア 公共性及び公益目的について
否認ないし争う。
労働争議を敵視し,自分の都合のよい事実だけを抜き書きする被告らは極めて一面的で偏った立場に立っており,このような偏頗な立場に立った本件記事はおよそ公益目的と無関係である。
イ 真実性及び相当性について
否認ないし争う。
真実性又は相当性に関する主張は,別紙主張一覧表「真実性・相当性」欄の「原告らの主張」記載のとおりである。
(3) 争点3(損害の発生及びその額)について
(原告らの主張)
原告X1は,本件各記述による著しい社会的評価の低下に伴う精神的苦痛を被っており,それを慰謝するために必要な金員は1500万円を下らない。原告組合は,本件各記述によって,労働組合としての存在価値を否定されるような著しい社会的評価の低下が生じており,当該無形の損害を填補するために必要な金員は1500万円を下らない。
原告らは,本件訴訟を提起するために弁護士に依頼せざるを得なかったから,被告らが負担すべき弁護士費用は,各150万円を下らない。
したがって,原告らは,それぞれ1650万円の損害を被った。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
(4) 争点4(謝罪広告の必要性)について
(原告らの主張)
本件雑誌は,多数の者に読まれることになったのであり,原告らの名誉を回復するためには,謝罪広告を掲載することが必要不可欠である。
(被告らの主張)
争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件各記述による原告らの社会的評価の低下の有無)について
(1) 判断基準
ある文章の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該文章についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
(2) 本件各記述について
本件各記述のうち本件記述1は,本件記事の本文とは区別された表題部分に,本件表題よりも小さなポイントの文字で記載されており,その内容からも,本文部分の記載を踏まえた被告Y1の意見ないし論評を記載したものであると認められるので,本件記述2ないし7についてまず検討し,その上で本件記述1について検討する。
ア 本件記述2について
(ア) 本件記述2は,暴力団組員であるC1から声を掛けられた原告X1が,暴力団と関係を有していることを摘示するものであり,原告X1について原告組合の委員長である旨が示されていることからすれば,原告ら双方の社会的評価を低下させると認められる。
(イ) 原告らは,本件記述2について原告らと暴力団とが以前から密接な関係を有することを摘示するものであると主張する。しかしながら,原告X1がC1から一方的に罵声を浴びせられたことを示すにすぎないから,原告らと暴力団との間に何らかの関係があることにとどまらず,密接な関係があったことまでを摘示するとはいえない。
また,被告Y1は,この一件で原告らはC1らから攻撃を受けた被害者であると認識している旨述べる(乙35・5頁)が,そうであるとしても,本件記述2は,C1から原告X1に対してまた悪だくみをしている旨を発言したことを示し,それ以前に関係を有していたことを摘示しているから,被告Y1の上記供述によっても,前記(ア)の認定は左右されない。
イ 本件記述3について
本件記述3は,原告X1名義で発行された手形の換金に伴う裏金について,暴力団であるD1会と関係のあるE1協同組合の加盟業者が重要な役割を果たしたこと,原告組合主催のゴルフコンペにD1会会長の亡F1が出席し,紹介されたことを示すものであるから,原告らとD1会との関係を摘示しており,原告らの社会的評価を低下させるものであると認められる。
ウ 本件記述4について
本件記述4は,関西の■■業界関係者の発言内容として示されているが,記載内容や,この前後の記述(甲3)からすれば,当該関係者の発言を紹介する体裁で発言内容の事実を摘示するものと認められる。
そして,本件記述4は,原告X1とG1組が親密な関係にあること,原告組合が,労働組合を標榜して企業の業務を妨害して解決金を巻き上げる反社会的な活動を行う集団であること,原告組合が複数の暴力団と交際し,原告組合の事務所にはG1組系の暴力団組員が出入りして定期的に大金を持ち帰ることを摘示するものであり,原告らの社会的評価を低下させると認められる。
エ 本件記述5について
(ア) 本件記述5についても,平成21年10月から11月頃に,関西の■■業界の間で出回ったとする告発文書(乙11)の記載内容を引用するものであるが,その内容や,本件記述5の前後の記述(甲3)からすれば,当該告発文書の引用の体裁で,記載内容の事実を摘示するものと認められる。
そして,本件記述5は,原告らが暴力団等とともに利権構造を成立させ警察の捜査の対象となっていることを摘示するものであり,原告らの社会的評価を低下させると認められる。
(イ) 原告らは,本件記述5について,原告らが警察内のシンパを利用して捜査を妨害するなど捜査について不当な圧力を及ぼしていることを摘示していると主張するが,本件記述5は,警察内部に内通者や原告らのシンパがいるため,捜査が難航している事実を摘示するにとどまり,捜査が難航していることについて,原告らが警察に対して何らかの影響力を及ぼしている事実まで摘示されているとは認められないから,これを前提とする原告らの主張は採用することができない。
(ウ) 被告らは,業界団体,暴力団,民族(北)の利権構造を成立させているのは関西型のセメント,生コン業界であり,原告らを対象とした記述ではないと主張する。しかしながら,本件記述5は,原告らを中心に捜査を継続している旨が記載されていることからすれば,利権構造の中心に原告らがいることを示すものであり,被告らの主張を採用することはできない。
オ 本件記述6について
本件記述6についても,大阪の別の■■業界関係者の発言内容として示されているが,記載内容や本件記述6の前後の記述(甲3)からすれば,当該関係者の発言を紹介する体裁で発言内容の事実を摘示するものと認められる。
そして,本件記述6は,原告組合が,業務妨害専門の専属の街宣部隊を有しており,日常的に業務妨害行為及び解決金の取得を行っていたことを摘示するものであり,原告組合の社会的評価を低下させると認められる。
カ 本件記述7について
(ア) 本件記述7についても,本件記述6と同様に,記載内容や本件記述7の前後の記述(甲3)からすれば,■■業界関係者の発言を紹介する体裁で発言内容の事実を摘示するものと認められる。
そして,本件記述7は,原告X1がG1組5代目組長と直接話すことができるというような関係を有していたが,G1組組長の代替わりによって原告らの資金力が低下したことを摘示し,原告らとG1組とが密接な関係にあったことを示すものであり,原告らの社会的評価を低下させると認められる。
(イ) 原告らは,本件記述7が原告らとD1会とが深い関係を有することを摘示すると主張するが,本件記述7は,D1会やH1組とI1会との間に調停役がいることを示すにすぎないと認められるから,原告らとD1会との間の関係を摘示するものとは認められない。
キ 本件記述1について
(ア) 本件記述1は,前記のとおり,本件記述2ないし7を含む本件記事に記載された事実を前提に,原告らと暴力団であるI1会が関係を有しているとの被告Y1の意見ないし論評を記載したものであり,原告らの社会的評価を低下させると認められる。
これに反する被告らの主張は採用することができない。
(イ) 原告らは,「鍵を握る」との表現が暴力団に対して影響力を行使し得る原告らの地位を示すものであると主張するが,「鍵を握る」という表現はI1会の勢力に関し,原告組合に属する原告X1の存在が重要であることを示すにとどまり,原告X1が暴力団に対して影響力を行使し得る事実が摘示されているとまではいえない。
(3) 小括
以上のとおり,本件各記述のうち,本件記述6は,専ら原告組合に関する事実摘示であって,原告X1の社会的評価を低下させる事実を摘示するものではなく,原告組合の社会的評価を低下させる。その余の記述については,原告らが一体のものとして記載されていることからすれば,原告X1及び原告組合のいずれの社会的評価も低下させるものである。
2 争点2(本件各記述の違法性阻却事由の存否)について
(1) 公共性及び公益目的について
①原告X1は,生コン会社2社に対し,原告組合に加入するよう求め,多数の組合員を押しかけさせて,ミキサー車の出入りを妨害するなどしたとして,有罪判決を言い渡されたことがあり,当該判決は平成19年1月23日のJ1新聞において紹介されたこと(乙2,弁論の全趣旨),②原告組合が,平成22年4月頃,原告組合からの生コン輸送運賃の値上げ等を要求事項とする団体交渉の申入れに対して同要求事項に応じることはできない旨の回答をした株式会社K1を批判する内容の街宣活動を行ったところ,この活動の際に同社の一部の工場からの生コン出荷業務の遂行を困難にさせたことを理由として,原告組合の組合員に対して威力業務妨害罪の有罪判決が言い渡され,同判決が確定したこと(乙5,弁論の全趣旨)が認められ,そうすると,原告らは,原告らの要求を実現するため,違法な業務妨害行為や争議行為を行っていたことがあり,そのことが新聞報道されるなどして,社会的にも注目されているといえる。そのような原告らの属性等について報じることは,社会の関心に沿うものであり,本件記事の掲載は,公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図ることにあったものといえる。
(2) 真実性又は相当性
ア 本件記述2について
被告らは,C1が原告X1らに対して罵声を浴びせた現場に居合わせたとされる生コン販売会社の経営者から話を聞いた「A」という人物(以下,単に「A」という。)の供述(乙25)を基に,C1が原告X1らに対して罵声を浴びせたという事実が真実であり,又は真実であると信ずるにつき相当の理由がある旨主張する。
しかしながら,Aが生コン販売会社の経営者から話を聞くこととなった背景事情やその際の状況は不明である上,Aに対して現場に居合わせた上記経営者が誰であるかを確認したが回答を拒否された旨の被告Y1の供述(被告Y1 22,26,27頁)を裏付ける記載は,被告Y1がAに取材した際の録音テープを書き起こしたとする書面(乙25)にはなく,そのことについて合理的な説明はされていないのであって,被告Y1の供述,ひいてはAの述べた内容についての信用性には疑いが残る。また,被告Y1は,Aの話の様子及び2回の取材で矛盾がなかったことからAの供述を信用したと述べる(乙35・4,5頁)ものの,本件記述2で示された出来事の現場に居合わせたとされる他の関係者にも取材するなどのAの供述を裏付けるための作業を経たことはうかがわれない。
そうすると,Aの供述を基に本件記述2に記載された事実が真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が本件記述2に記載された事実を真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
イ 本件記述3について
(ア) 手形振出しについて
被告らは,手形振出しによる裏金ルートについて,原告X1が,E1協同組合の加盟業者であるL1商事に対して29億6000万円の約束手形を振り出したことを示す告発状(乙9)や亡B1への取材などにより裏付けられるとし,また,L1商事と暴力団であるD1会との関係については,L1商事の代表者のM1とD1会との関係を示すN1(祇園)人脈図と題する書面(乙16。以下「本件人脈図」という。)により裏付けられると主張し,被告Y1は,本件人脈図は京都府警察が作成したものであり,本件人脈図に記載されていることは暴力団との関係を示すと供述する(被告Y14,29~31頁)。
しかしながら,前記告発状は大阪府警察に受理されているものではなく(乙35・7頁),亡B1への取材結果(乙27)についても,本件記述3の記載内容を裏付けるに足りるものではない。
また,本件人脈図について京都府警察の作成に係るものであることを認めるに足りる証拠はなく,本件人脈図に,D1会及びM1の名称が記載されているものの,両者を直接結び付ける図示はなく(乙16),D1会とM1との直接のつながりを認めることはできず,D1会とM1との関係が明らかになっているとはいえない。
したがって,暴力団との深いかかわりを持つM1が原告組合の裏金ルートに関して重要な役割を担っていたとの事実が真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
(イ) D1会との関係について
被告Y1は,亡F1が原告組合の主催したゴルフコンペに出席し,紹介されたとの事実について,原告組合●●ブロック委員会幹部である「Z」という人物(以下,単に「Z」という。)の供述内容(乙31の1,31の2)が信用できることから,真実であると考えたと供述する(被告Y1 35頁)。
しかしながら,Zは,前記ゴルフコンペに参加していたと述べているものの,その時期や開催場所について明確に述べておらず,また,被告Y1は裏付け証拠獲得に向けて努力したと供述するが,Zとの会話(乙31の1,31の2)にこの供述に沿うやり取りは見当たらず,他にこれを基礎付けるに足りる証拠は認められない。そして,被告Y1は,Zの供述が信用できるものであるとする根拠として,「極めてリアルだったから」(被告Y1 34頁)とするのみで,それ以上の具体的な態様を説明していない。
したがって,客観的な裏付けがなく,その供述も曖昧であるZの供述内容の信用性には疑いが残るものであり,亡F1が原告組合の主催したゴルフコンペに出席し,紹介されたとの事実が真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
ウ 本件記述4について
(ア) 原告X1とG1組との関係について
被告らは,本件記述4の原告X1とG1組との関係に関する部分の真実性つき,原告X1が5代目組長のときのG1組となれ合いで利権を分け合う関係であったとのAの供述(乙25),原告X1の大阪拘置所刑務官に対する贈収賄事件(乙3の1~4)及び原告X1がG1組の有力な組員であったO1に殺害されそうになった際,G1組のP1の仲介によって,一命をとりとめたこと(乙8。以下,この記述がある乙8の書籍を「本件書籍」という。)を根拠として真実性,相当性があると主張する。
しかしながら,前述したとおり,Aは,「なれ合いで進めることが出来たよう 色んな意味で商売がね」,「結果的にその利権吸い上げるわけやから どうぞどうぞと」などと抽象的な事項を述べるにとどまり(乙25・1頁),原告X1とG1組との関係を裏付ける他の証拠も認められないのであるから,Aの供述の信用性には疑いが残る。
また,前記贈収賄事件は,刑務官がQ1の口利きで原告X1の便宜を図ったことに関する現金の授受と報道されているものの(乙3の1),有罪判決が言い渡されたことに関する報道においては,外部との連絡の橋渡しなど便宜を図った見返りとして現金を交付したとの事実が認められたと記載されるにとどまり(乙4),Q1の口利きで原告X1の便宜が図られたか,仮に原告X1の便宜が図られたとしても,Q1と原告X1との間の個人的な関係を超えて原告X1とG1組との間の親密な関係を推認させるものであるかについては明らかでない。
そして,本件書籍において,G1組のP1に助けられた旨の記述があるものの,その経緯も明らかでなく,当該部分においてG1組のO1に拉致監禁された旨の記述もあることから(乙8),本件書籍に記載された事実関係がG1組との親密な関係を基礎付けるものとはいえない。
したがって,原告X1とG1組が親密な関係にあったとの事実が真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
(イ) 業務妨害による解決金取得について
被告らは,大阪市内に本社を持つR1運送会社の社長である「F」という人物(以下「F」という。)の供述(乙32)を根拠として原告組合が業務を妨害しながら解決金として金銭を巻き上げる反社会的集団,すなわち半グレ集団である旨を執筆したと主張する。
前記(1)アのとおり,刑事責任を伴う違法な争議行為を行うなどしていること,争議行為によって解決金を取得することもあったこと(乙20,29,33の1~33の3,弁論の全趣旨)から,その範囲においてFの供述は信用することができ,反社会的な活動を行う集団という側面を有する半グレ集団であるとの事実及び業務妨害行為を行って解決金を取得しているとの事実については,被告らにおいて,少なくとも真実であると信ずるにつき相当の理由が認められる。
(ウ) 原告組合の事務所にG1組系組員が出入りし,定期的に大金を持ち帰っていたことについて
a 被告らは,原告組合の事務所にG1組系組員が出入りし,定期的に大金が持ち帰られていたことについて,亡B1の供述(乙27),Zの供述(乙31の1),S1の作成に係る本件帳簿(乙36)等を根拠として真実であると主張する。
b Q1が原告組合の会館に出入りしていた旨の亡B1の供述(乙27・21枚目)については,Q1は原告X1と同じ徳之島の出身で,Q1の子が原告X1の運転手として稼働していたことからすれば(原告X1 14頁),Q1が原告組合の会館を訪れていたとしても不自然ではなく,また,亡B1は原告組合の関係者であったことからすれば(弁論の全趣旨),Q1が原告組合の会館を訪れた場面を目撃する可能性も否定できない。さらに,T1一家の組員と思われる者が原告組合の会館に押しかけたことや原告X1が暴力団関係者と何らかの関係を有するものとうかがわれること(前記(ア))を踏まえると,Q1が原告組合の会館に出入りしていた旨の亡B1の供述を信用することもやむを得ないものであって,これに沿うG1組系組員が原告組合の会館に出入りしていたという摘示事実については,少なくとも被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき相当の理由があるということができる。
c 本件帳簿には,平成15年1月30日の欄に「×××400万(入)この間200万(出)」,「×××」との記載,同月31日の欄に,「×××」という名目の下,「(Q1)100万(出)」との記載があり(乙36・2枚目),同月30日と同月31日に,200万円と100万円の出金がされたことをうかがわせる記載が存在する。しかしながら,同月30日の記載は同月31日の記載と比較して,Q1に対して金銭が交付された旨の記載であるか必ずしも明らかでないし,この点を措くとしても,平成15年1月20日から同年11月30日までの期間の本件帳簿のうち,証拠として提出された部分において,G1組H1組系Q1組の総長であるQ1に金銭が交付されたことをうかがわせる記載は上記の記載についてのみであり,その名目も「×××」「×××」とされており,いかなる理由の出金であるかも明らかでなく,被告Y1の供述を前提としても,定期的に大金を持ち帰る関係にあったということまでは認められない。また,被告Y1は,Q1が原告の会館を訪れた際に,100万円を持ち帰った旨の亡B1の供述を聞いたと述べるが(乙35・16頁),当該事実は,被告Y1が本件記事や別件連載を執筆する際に,極めて重要となる事実であるにもかかわらず,亡B1の供述の録音を起こしたもの(乙27,34)には記録として残されておらず,いつ,どのような会話の流れで聞いた話であるかについても何ら明らかになっていないものであって,亡B1の供述を聞いたとする被告Y1の供述の信用性には疑いが残る。他に上記の事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,Q1が原告組合から100万円を持ち帰ったとの事実,ひいては,原告組合の会館から定期的に大金を持ち帰っていた事実について,真実であり,又は真実であると信ずるにつき相当の理由があるということはできない。
d 以上より,本件記述4のうち,原告組合が半グレ集団であり,業務妨害行為を行って解決金を取得することがあったこと,G1組系組員が原告組合の会館を訪れていたことについては,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるといえるが,定期的に大金を持ち帰っていたことについては,本件帳簿,Aの供述(乙25),亡B1の供述(乙27),Zの供述(乙31の1)のいずれについても,その信用性に疑いが残るものであり,真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
エ 本件記述5について
原告らが暴力団等とともに利権構造を成立させ警察の捜査の対象となっていることが真実であり,又は真実であると信ずるにつき,相当の理由があることについて,これを認めるに足りる証拠はない。
オ 本件記述6について
判決文(乙5)によっても,原告組合が行った抗議活動について,社会的相当性を認められる範囲をはるかに超えており,不法行為法上違法の評価は免れないとの判断がされているにすぎないから(弁論の全趣旨),原告組合が業務妨害専門の街宣部隊を編成しているとの事実が真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
カ 本件記述7について
(ア) G1組との関係及び資金力の低下について
被告らは,原告X1がP1に助けられたことやQ1とのつながりから,原告らとG1組との間に親密な関係があり,また,金融機関から代表者の変更がなければ融資をしないとの融資拒否や建設業者からの受注拒否があったことから(乙21の1,21の2),原告らが一般的にも反社会的勢力とみなされていると主張する。しかしながら,被告らの指摘する事実が,原告X1はG1組5代目組長と直接話すことができるという親密な関係にあることを基礎付けるものではなく,さらに,上記融資拒否や建設業者からの受注拒否が,原告らとG1組との間に関係があることによるものであるかは明らかでないし,G1組組長の代替わりによる資金力の低下を裏付けるものでもない。上記の点につき,真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
(イ) 調停役について
Aは,G1組の組長が6代目に代わり,原告組合がヘロヘロになっていること(乙25・6頁),原告X1が活動を続けていられるのは,U1組組長が調停役となっていること(乙25・13頁)を供述し,被告Y1はBも同旨を述べていると供述するが(乙35・20頁),これを裏付ける証拠はなく,A及びBの供述の信用性には疑問が残る。
したがって,原告X1が活動を続けていられるのは,暴力団の調停役がいるからであるとの事実が,真実であったと認めることはできず,また,被告Y1ひいては被告会社が真実であると信ずるにつき,相当の理由があるということもできない。
キ 本件記述1について
G1組のP1に助けられた旨の記述がある本件書籍(乙8)の記載,T1一家の組員と思われる者が,平成21年頃,原告組合の事務所に押しかけ,原告X1に会わせるよう要求してきたこと(弁論の全趣旨)に照らせば,原告らと暴力団との間に何らかの関係があることがうかがわれるものの,前記アないしカのとおり,本件記述2ないし7に記載された事実(ただし,本件記述4に記載された事実のうち,G1組系組員が原告組合の会館に出入りしていたこと,原告組合が半グレ集団であり,業務妨害行為を行って解決金を取得していたこととの事実は除く。)について真実性ないし相当性が認められないことからすると,本件記述1の意見ないし論評の前提となる事実について,真実であり,又は真実であると信ずるにつき相当の理由があるとはいえない。
ク 小括
以上より,本件記述4のうち,G1組系組員が原告組合の会館に出入りしていたこと,原告組合が半グレ集団であり,業務妨害行為を行って解決金を取得していたこととの事実につき,少なくとも真実であると信ずることについての相当性が認められるものであるが,当該記述を除き,いずれも真実性又は相当性が認められないのであるから,本件各記述につき,違法性阻却事由は認められない。
したがって,被告らは,本件記述4のうち,G1組系組員が原告組合の会館に出入りしていたこと,原告組合が半グレ集団であり,業務妨害行為を行って解決金を取得していたこととの内容を除き,本件各記述につき,共同不法行為責任を負う。
3 争点3(損害の発生及びその額)について
原告らの社会的評価の低下の程度,被告Y1による取材内容やその裏付けの程度等に照らすと,原告らの精神的苦痛ないし無形損害を填補するための金員は原告X1につき25万円,原告組合につき30万円が,弁護士費用相当額として原告X1につき2万5000円,原告組合につき3万円が相当である。したがって,損害額は,原告X1につき27万5000円,原告組合につき33万円となる。
4 争点4(謝罪広告の必要性)について
前記2(1)アのとおり,原告らと暴力団との間に何らの関係がないことまで認められるものではないから,社会的評価の低下の程度が著しいものではなく,また,本判決により原告の名誉が一定程度回復することが想定し得ることなどに鑑みれば,原告らの名誉の回復を図るために,金銭賠償のみでは填補され得ないとして謝罪広告を掲載する必要があるということはできない。
第4 結論
以上の次第で,原告らの被告らに対する請求は,原告X1については27万5000円,原告組合については33万円及びこれらに対する本件雑誌の発売後である平成25年9月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で一部認容し,その余の支払及び謝罪広告の掲載を求めるものについてはいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第41部
裁判長裁判官 山田真紀
裁判官 大黒淳子
裁判官 下山雄司